デジタル通信方式


ISDN(Integrated Services Digital Network、サービス統合デジタル網)

ネットワークを全てデジタル伝送路とデジタル交換機で構成し、加入者線もデジタル伝送にすることにより、すべての端末をデジタル回線で接続可能になります.これを「デジタル一リンク接続」といい、情報は全てパルス(デジタル信号)の形で送られます.
アナログネットワークでは、音声、データ、画像などの情報は、それぞれの波形をできるたけ忠実に相手まで送る必要がありますが、その際、いろいろな情報を一つのネットワークの中に混在させて送ると、情報の周波数の違いや波形の差があるためにお互いに干渉したりして不都合が生じやすくなります.ところがデジタルネットワークでは、情報は全て同じパルスの形に変換されて送られるため、ネットワークの中にいろいろな情報を混在させても不都合は起こりません.そのため、電話のほか、データ、ファクシミリ、画像など全ての通信サービスを一つのネットワークで提供できるようになります.
これがISDN(Integrated Services Digital Network)であり、これまではサービス対応に個別に作られていたネットワークが一つですむので、ネットワークとしてのスケールメリットが活かせるだけでなく、需要が不確定なサービスにも柔軟に対応できるようになります.

Iインターフェース

ISDNのユーザ・網インターフェースは、宅内設備をISDNに接続する際に必要となる通信プロトコルについて定めたものが、ITU-T勧告番号体系のIシリーズとしてまとめられています.これはIインターフェースと呼ばれています.
Iインターフェースを使えば、
1.世界中のどの端末でも自由に接続できる.
2.どんな端末も同じインターフェースを共用できる.
3.呼ごとに異なったサービス(回線交換、パケット交換、伝送速度の違い、など)を選択して使用できる.
4.同時に複数の端末を接続できる.
5.通信中に端末を移動できる.
6.高速多重サービスを受けられる.
などの従来の電話網やDDX網では実現できなかった利用法が可能になります.
規定されているチャネルは、
チャネル 速度 用途
Bチャネル 64kbps 電話、G4ファクシミリ、静止画像、簡易動画像など
Hチャネル 384kbps,1536kbps 超高速データ、動画像など
Dチャネル 16kbps,64kbps ダイヤル番号、呼出音、切替信号などの制御信号
の3種類があります.
これらを組み合わせた形で、基本インターフェースと一次群インターフェースがあります.
インターフェース チャネル 用途
基本インターフェース Bチャネル(64kbps)×2+Dチャネル(16kbps)=144kbps 一般家庭からビジネス用
1次群インターフェース Bチャネル(64kbps)×24+Dチャネル(16kbps)=1536kbps
BチャネルとHチャネルを適当に組み合わせた構成
主にビジネス用
IインターフェースはISDNのために作られた新しい規格であり、既存の端末はTA(ターミナルアダプタ)でインターフェースを変換して接続します.

ATM(Asynchronous Transfer Mode)

種類が違う多種多様な情報信号を、同じ交換機や多重化装置を使って転送する方法として考え出されたのが、ATM(Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)です.
ATMでは、以下の図に示すように情報信号(デジタル)は全て一定長のブロックに分割し、ヘッダを付加してセルと呼ぶ単位にしたものを1つずつ転送します.セルの長さは53バイトで、そのうち5バイトがヘッダ、48バイトが情報です.
ヘッダの中にはそのチャネルを示す番号(ラベル)があり、それを見ればどのセルがどのチャネルなのかをすぐ識別できます.ATMはこのラベルを頼りにしてセルを多重化、交換しています.
従来の同期多重を行うSTM(Synchronous Transfer Mode、同期転送モード)では、各チャネルのビットレートは常に同じか整数比でなければならないが、これに対しATMでは、各チャネルのビットレートは必ずしも同じである必要はなく、転送するセルの数でビットレートを調節できます.そのため低速から高速まで多種多様な信号を効率よく多重化できます.
ATMは多彩な情報を扱うマルチメディア通信に最適で、超高速バックボーンネットワークやセルリレー、ATM専用線、ATM-LANなどに使用されています.

セルリレー

電話やISDNのような回線交換や専用線は伝送速度が決まっていて、情報信号を常に一定のビット間隔で送るので、リアルタイム性を必要とする音声通信や映像通信に向いています.
その一方で送る情報がバースト的に生じて、しかも複数の拠点にまたがるようなLAN間通信やセンター・エンド型のデータ通信では、統計多重や論理多重ができない専用線や回線交換は効率が悪いです.
音声や映像など様々なタイプのデータ通信を統合して扱うマルチメディア通信では、専用線とフレームリレーの両方の特徴を持つATMを使ったセルリレーが適しています.電話網やISDNなどの回線交換や高速ディジタル専用線は、伝送速度が64kbpsの整数倍に固定されていて、それ以外の信号は送れず、端末はネットワークと同期をとって信号を送信する必要があります.ところがATM技術を使うセルリレーでは、信号をいったんセルに分割して送るので、端末はネットワークと非同期で伝送速度も自由に選ぶことができます.
伝送速度は135Mbpsまでの超高速メニューから選ぶことができ、一定の伝送速度を常時保証したり、最低限必要な伝送速度を細かく指定することもできます.速度保証型(CBR)は、ピーク・セル・レイト(PCR)を指定するもので音声や動画の伝送に適しています.これに対して可変速度型(VBR,ABR)は、回線が混んでいなければPCRで送れるが、混んでくると速度が低下します.ただし最低限度の速度は確保するので、コンピュータ通信に使われます.また、伝送速度をまったく保証しない型(UBR)もありLAN間通信などに使うことができます.

フレームリレー

LANとLANを相互に接続するには高速デジタル専用線が使えるが、料金が高いのが難点です.LAN間通信のトラフィックは通信速度があまり高くないデータのやり取りが大半であるが、散発的にはファイル転送などのバースト的なトラフィックが加わることがあります.バースト的なトラフィックにはパケット交換網が有効ですが、伝送速度は最大64kbps程度が限界です.
フレームリレーもパケット交換と同様に、データをブロックに分割して作ったフレームを転送しますが、パケット交換との違いは、誤り制御でパケットを再送するという機能が省略されている点です.フレームリレー交換機は送られたきたフレームをアドレスに従って次々とバケツリレー式に中継することで、2Mbps程度までの高速転送が可能です.伝送路の品質が良くなり伝送中の符号誤りが少なくなり、誤り制御を省略しても差し支えありません.
フレームリレーは交換サービスであるが、常時接続にして専用線の代わりに使うことができます.複数の拠点間を結ぶLAN間通信に最適で、1台のルータでフレームリレーにつなげば複数の拠点のLANと相互通信ができ、複数のルータを使って個別に専用線で結ぶよりも安上がりです.

パケット交換(X.25) フレームリレー セルリレー
通信速度(ビットレート) 〜64kbps 64kbps〜1.5Mbps(〜2Mbps) 1.5Mbps〜156Mbps(〜620Mbps)
転送単位 最大4096Byte(可変長) 最大4096Byte(可変長) 53Byte(固定長)
網内転送遅延時間
網内輻輳制御 あり なし(通知のみ) なし
網内誤り再送制御 あり なし なし
主な運用分野 データ通信 データ通信、LAN間接続 マルチメディア通信、データ通信、LAN間接続
料金体系 従量制(パケット単位) 主として定額制、一部従量制もあり 従量制、定額制

VC(仮想回線)とVP(仮想パス)

パケット通信、フレームリレー、セルリレー(ATM)ではデータをある長さに区切って、それぞれパケット、フレーム、セルと呼ぶブロック単位でネットワークの中を転送します.各ブロックには送信先のアドレスが入ったヘッダが付加されているので、同じ回線の中を送られてきてもヘッダのアドレスで別々の送信先に送ることができ、1本の回線の中に実際的に複数の回線ができているのと同じように利用が可能となります.
このようにして作られて実効的な回線をVC(Virtual Channel、仮想回線)と呼びます.
また、回線を幾つかまとめたものをパスと呼ぶが、VCをまとめたものをVP(Virtual Path、仮想パス)と呼びます.

インテリジェント・ネットワーク(IN)

従来のネットワークは伝送路と交換機をつなぎ合わせた構成ですが、インテリジェント・ネットワーク(IN)はこれにSAP、NSP、NSSPという3つの装置を加えて作られます.
SAPは、ユーザからのサービス要求を受けてNSPを起動し、必要な情報を転送し、NSPからの指示を受けて接続・切断・課金など普通の交換機と同じ処理を行います.
NSPは網内に置かれたコンピュータで、高度サービス機能のうち、@番号変換、A接続制御、B課金制御、C運用情報収集、といった一つ一つの通信に対して高速でサービス制御を行う機能を分担します.
NSSPも網内のコンピュータで、高度サービス機能のうち、主に高速で制御する必要のないサービス管理機能を分担します.
初期のINを改良して柔軟性を高めた高度INでは、新サービス呼制御機能をSCPに移し、SMSとSCEとした構造になっています.

OSI(開放型システム間相互接続)

OSI(Open Systems Interconnections)は、メーカが違うため仕様や規格が異なるコンピュータや端末、ネットワークなどのシステム間でも通信ができるように、ITU-TやISOが標準化した体系で「開放型システム間相互接続」と呼ばれます.
開放型システムとは、通信によってシステム内の設備を別のシステム内の設備とつなぎ、お互いに連携して動作させることによって高度な機能を実現しようとするシステムのことです.
このようなシステムをつないでうまく動作させるには非常に多くの機能が関係するので、あるモデルに基づいて機能を分類するということが行われます.このモデルを「OSI参照モデル」と呼び、各システムで共通な機能をまとめて1つの層(レイヤ)とし、全部で7つの階層に分類して体系的に並べます.これを「OSI七階層モデル」と呼びます.
レイヤ 名称 主な機能
7 アプリケーション層 ユーザが実行したい業務内容(ファイル転送や電子メールなど)に応じた各種通信機能を管理
6 プレゼンテーション層 データの表現形式(符号化、暗号化など)に関する制御機能
5 セッション層 データを効率良く通信するためのやりとりの制御、データ伝送の同期制御などの機能
4 トランスポート層 送受信端末間の論理的な通信路を確保し、通信の品質を保証するための機能
3 ネットワーク層 経路選択(ルーティング)とデータの中継・転送機能
2 データリンク層 情報をフレーム化し番号を付与、データリンクコネクションの確立・維持・解放、送達確認、フロー制御、伝送誤りの検出・復旧などの機能
1 物理層 コネクタの形状、信号レベル、インピーダンス、信号の機能、シーケンスの動作条件などの規定、DTE/DCEインターフェース
物理媒体 より対線、同軸ケーブル、光ファイバ、衛星回線、マイクロウェーブ回線など

VPN(仮想私設網)

VPN(Virtual Private Network)は「仮想私設網」「仮想専用線」「仮想閉域網」などと呼ばれ、電話網やISDNなどの公衆網をあたかも専用線を使って企業などが自社用に構築したプライベートネットワーク(私設網)のように利用できるものです.
VPNはインテリジェントネットワークの代表的な応用例で、網内コンピュータ(NSP)に番号変換、接続制御を行うようなソフトウェアを入れることで実現できます.これによって料金が高い専用線を使って自らプライベートネットワークを作るに至らなかった企業でも、容易に自社網を持つことができるようになりました.運用・保守などは全て電話会社が行うので面倒が無く、利用時間によっては料金の点で有利になるなど、ユーザにとってのメリットが多い.
またインターネットでも、特定のユータ間の通信を暗号化する技術と認証技術を使ってVPNを実現できる.将来のIPネットワークでも同様の技術でIP-VPNをつくることができ、各社とも力を入れている.